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音楽・本について、色々。

Lee Wiley

十代の頃から好きな歌手の一人であったのだけど、以前にはここまで響いていなかった。最近ただただ、くり返し聴いている。
 

ナイト・イン・マンハッタン

ナイト・イン・マンハッタン

 

 

 ポール・クグラー著『言葉の錬金術』によると、ドイツ語の「母」と「海」は、“Mar”と“Meer”、フランス語は“Mère”と“Mer”、ラテン語では“Mater”と“Mare”。その他さまざまな「母」と「海」は音韻的に結びついている、らしい。 

 

言葉の錬金術―元型言語学の試み

言葉の錬金術―元型言語学の試み

 

これはもしかすると、かつてはわれわれの唯一の世界であった母という偉大な原始的なイメージが後には、全体世界の象徴となる、ということを指し示しているのではないだろうか。

 

というユングの言葉と一緒に紹介されている。漢字の「海」も「母」にサンズイが付いたものだ。この星で最初の生物が生まれた場所であり、そしてまたいつでも、何でもを飲み込んでしまう海。この女性の声をくり返し聴いていて、ふと思い当たったのはそんな話だった。

たなびく波のような、海面の光の瞬きのようなヴィブラート。そんな柔らかなものに、茫洋と儚いものが捉えどころのないまま、封じ込められているように思う。そのゆらめきの下に、そんなことをやってのけるほどの強靭さが見え隠れしている。

50年代の録音にしても、かなり古めかしくナロウに聴こえるのがちょっと不思議でもあるのだけど、それでも歌の上手さと雰囲気の良さでいつまでも聴いていられる。

それにしても、エーテルが本当に強そうで、聴いていてじんわりとわくわくする。突飛なことはしてないのに、このドライブ感。神秘的ですらあるのに、無闇に振り回されるのではなく、どこかへ確実に連れてってもらえるような、フレーズのたびごと次々に未知の「着地」を見せてくれる、このハンドルさばき。なので「女はドライブ感」と、ちょっといってみる。