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音楽・本について、色々。

ピアノ探訪③

■アポロピアノに驚く

 (前回のつづき)

余韻の中をゆるやかに遠回りしながら、バス停へ向かい、国道に出た。少し行くと、こじんまりしたお店の中にアップライト・ピアノが並んでいた。ショール-ムというより、町の楽器屋さん、という出で立ち。入ってみると、大手メーカーの中古品が10台ほど並んでいる。一見新品に見えるぐらい、見た目はきれい。

オーナーさん曰く「古いものほど値段が安くなっていきますが、良し悪しではないです」。同じメーカーでも、年代によっても、型番によっても、音はちがう。もちろん保存状況によっても。

弾いてみて、古いものほど価格は安いけど、味のある音だった。付き添いの友人から「奥にアポロピアノがある」と教えられた。いちばん奥の角に、1台だけアポロピアノがあった。アポロも国産の手作りメーカーと聞いたことはある。そう思いながら、弾いてみた。

驚いた。音の伸びが良く、柔らかくも弾力のある太い音。キンキンした音の成分がほとんどない。高音までもずっと聴いていたくなるような、優しく温かい音。苦手なタイプのピアノだと、中高音がキンキン声の女の人みたいで特にうるさく、その音域をもうとばして弾きたくなるぐらい。このピアノは全体的に低域がよく出ているのか、これなら全然聞き疲れしそうにない。タッチもちょうどいい手応えがあって、弾きやすい。ずっと弾いていたくなる。

よく聞く表現に「まるい音」というのがあるけれど、私感ではコロコロしているというより、ぶ厚い温かな波のイメージだった。音がよく伸びて、指の下から波が引いていくように流れていく。

特に期待していなかったのだけど、音も弾き心地もとてもいい。まだ置ける部屋に引っ越せてもいないのに、このまま連れて帰りたい気持ちにかられる。早速そんなものに出会うとは。しかもこれで22万円。以前見た、スタインウェイの中古アップライトで良かったものだと250万、これの11倍である。ここのお店にあるものが、ほとんど全部買えてしまう。個人的にはその時のスタインウェイより、このアポロの方が好きだ。大橋やシュベスターの全修理品が(もとの状態にもよるが)、50~70万と聞いた。それでもこのアポロが3台買える計算になる。

でもやっぱり大橋等々、全修理済の真価も聞いてみたいので、さすがに即決はしなかった。それらのオーバーホール後のものを聴いても、アポロが忘れられなかったら、考えよう。それにしても実際弾いてみないと、本当に分からないものだ。ふらっと入った小さなお店に、こんないいピアノがあるなら、どこにどんなものがあるのだか未知数。帰ってからも、あのアポロの音色が忘れられない。

 以下、オーナーさんのお話

*大手メーカーの方が名前が通っているので、価格が高くなる。また実際殆どの人が買っていく。ので大手を多く仕入れるが、時々他メーカーでも状態の良く、音の鳴りのいいものを見つけて入れることもある。それがこのアポロ。

*古いものほど安くはなるが、昔のものの方が造りが丁寧で素材もいい。ピアノの裏も見せてもらったが、響棒・支柱の数から、木目の密度まで全然ちがった(木目は密度の高い方が音が響きやすい。密度が高い=年数の経っている木。そういういい木がどんどん手に入りにくくなってもいる)。裏側のちがいは、ぱっと見で誰でも分かるほど。

オーナーさん自身が「もう新品は売りたくない」と、はっきりおっしゃっていたのが印象的だった。リアルタイムで質のいいピアノの生産を見てきた時代の人なら、なおさらそう思うのかもしれない。

*子供のために買う親御さんは、弾いて音で選んだりはしない。やはり大手の一番安いものを買う。子供を連れてくると、正直に音の気に入った高いピアノを選ぶかもしれないので、親だけが来店して買うことも多いらしい(笑) さもありなん。

見た目・見せ方も大切だけど、中身はもっと大切。外と中は一致しないし、私と私以外の人の感覚もちがう。自分で1つ1つを見に、探しにいくしかない。