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歌詞解釈③:遠雷 - ましまろ

遠雷

ましまろ
作詞/曲:真島昌利

わだかまる雲 ひっぱるネオン
半開きの窓

南へ走る 列車の音が
風に途切れてる

ふらり ふらふら
考えている
考えてもない
眠くない

錆付く鉄の 橋の下には
カラスの休日

海賊たちの 遥かな歌を
思い出している

ふらり ふらふら
考えている
考えてもない
眠くない

遠くの空で 雷の音

いらないものに
いるもの混じり 
はっきりとしない

はっきりしない
いつでもそんな
はっきりとしない

ふらり ふらふら
考えている
考えてもない
眠くない

遠くの空で 雷の音

 

*わだかまる雲 ひっぱるネオン
 半開きの窓

雲と雲の間の放電、下へ枝を伸ばす稲光、半開きの窓が伝えるその遠景。「遠雷」を分解した描写。

* 南へ走る 列車の音が
  風に途切れてる

雷(列車)が、下界(南)へ落ちることとリンクする。その外の世界の遠雷を、頭の中へと反転させると、それが「風に途切れてる」とは、知識や情報に埋もれたどこか遠く奥の方で聞こえた、一瞬の天啓のようでもある。それは遠雷みたいに、一瞬だけ煌いて消えた。

* ふらり ふらふら
  考えている
  考えてもない
  眠くない

一瞬だけ見えてしまったものが、心を揺らす。考えるが、考えて分かるものでもないとも、どこかで分かっている。けれど目が冴えてしまった。

* 錆付く鉄の 橋の下には
  カラスの休日

「越境」の回路は錆び付いてしまったけれど、それでも確かにそこには在る。カラスは不吉とも賢いとも言われ、何か謎を握っているような存在。それが橋のたもとで休んでいる。謎を抱えたカラスが、いつか橋の向こうへ飛び立つ日、つまりそれが謎の解ける日だとしたら。今、橋の下に留まるカラスは、まだ解けない謎を暗示するかのよう。

* 海賊たちの 遥かな歌を
   思い出している

海は無意識。ついこないだ、 フロイトgoogleのロゴになっていたように。海上で暮らす海賊にとって、陸の姿を見ることは「発見」。無意識を「ふらり ふらふら」横断しながら、いくつもの発見・越境をした海賊に思いを馳せる。彼らが見た、天啓のいくつものつづきを。「揺れ」つづけ、先の見えない不安が日常であった海賊たち自身を、なだめすかしていた歌を、聞いてみたいと耳を澄ます。橋のそばで。

* いらないものに
   いるもの混じり 
   はっきりとしない

   はっきりしない
   いつでもそんな 
   はっきりとしない

   ふらり ふらふら
   考えている
   考えてもない
   眠くない

   遠くの空で 雷の音

海面の下でうごめくは、ありとあらゆるもの。いま気持ちを揺らすもの、忘れ去られたもの、忘れ去ったつもりが今また思い起こされるもの、忘れられないもの。それらを一瞬だけ照らした、稲光。一瞬何かの筋道が分かりかけ、すぐまた暗闇に引き戻された。そのせいで眠れなくなってしまったのだ。今はまた夜の海の上、ひとり取り残されて。

 

遠雷

遠雷