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三月の歌(雪の果て)

三月の歌(雪の果て)

作詞/曲 大野円雅

雪の果てで 思い出した
忘れていた 声がしたから

雪に溺れ 山波にさらわれ
見失った果てで 聞き取った

足音 水の音
手のひらに 風のたなびき

言葉になろう
もう 忘れないように
言葉になろう
囁かれたままでいよう

探し当てた 水脈が今
季節渡し 夜を流した

山を降りて 町へ着く頃
星々よ 灯をともしていて

足許 泥濘めど
歩くたび 霧が晴れていく

言葉になろう
もう 忘れないように
言葉になろう
囁かれたままでいよう

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製作中のCDに収録予定の曲。

「雪景(歌詞音源)」のあとの景色。雪は果てる。きれいに見えた雪は泥濘に沈む。冬に削ぎ落とされた景色のあと、まだ何の花も咲かず、空や水にも青さはない。目に見えるものには、まだ何の鮮やかさも輝かしさもない。けれど「予感」があり、止まっていた場面が動き始める。それは静かだけれど確かなもの。これからの景色に、色を付ける前に、ひとまず灯だけをともす。

その兆しを忘れないよう、もう雪に迷わぬよう言葉にする。その言葉の意味を、これから生きようとする。それは大きな声にしたら、途端にこぼれ落ちてしまう何か。だから言葉が立ち現れた時の、かすかな風のまま留めておこうと。

言葉を生きることで、言葉に「本当」の色が濃くなっていく。言葉を紡ぐということは、遥か昔からこれまでその言葉をなぞった幾多の人々の想念へ重なりにいき、それらが息づける通路を新たに作ってみる、ということ。立ち現れた通路は、まだ冷えた季節の上に「意味」を巡らせる。これから芽吹く季節が、すでに内側で息づき、そこに在ることを、目に見えるよりも前に、話し始めるように。